平素より旅と思索社と小社出版物をご愛顧いただきまことにありがとうございます。

 旅と思索社は5月1日を持ちまして創立満5年を迎えることができました。これもひとえに読者をはじめ、関係者の皆さまのご支援の賜物と心より厚く御礼申し上げます。

「出版不況」という呪文のような言葉に出版業界は長年立ち向かっていますが、なかなか光明を見出せずにいます。
 それでもわたしの知る限り、この1年で書店・出版社が続々と生まれ、その多くがたった一人で大海原に漕ぎ出し、孤独な挑戦を続けています。
 わたしはそんな皆さんの覚悟と勇気に心からエールを送りたいと思います。

 わたし自身、針路に迷いながらも今日まで来られたのは何だったのでしょう。
 それはやはり、本づくりに対する喜びなのだろうと思います。
 著者と出会い、原稿と格闘し、書店と関係を築きながら、読者との結びつきを深めていく。
 数多くの皆さんとのつながりで1冊の本が出来上がった時の感動が、わたしにとって何にも代えがたいものだからこそ、今日を迎えることができたのだと思います。

 この5年間、わたしは出版の世界とは「アウトサイダー」という意識を持って関わってきました。
 わたしのような本づくりの未熟者が出版にどっぷりつかってしまうと、傲慢な上っ面だけの業界人となり、ほんとうにつくるべき本が見えなくなることが怖かったからです。

 結果、見えてきたものがたくさんありました。
 マスメディアとしての本づくりから離れ、普段見過ごされている世界に目を向け、自分なりにすくい取ろうとしてようやく見えてきたのは、「マイノリティ(社会的少数派)」というキーワードでした。
 マイノリティの世界は、わたしにとって理解はできるのかもしれないけれど、それは結局のところ「マジョリティ(社会的多数派)」として傍観しているにすぎないという葛藤があります。
 いま、そこに一歩足を踏み込み、同じ時間と思いを共有し、1冊の本をつくる意味についてずっと考え続けています。

 わたしが初めて本づくりの現場に入った時、当時のわたしの先生であった村山惇さんはこう言いました。
「読んで元気になる、希望が持てる本をつくりなさい」
 あれから15年近くたち、少しずつですがわたしの中でそのほんとうの意味が分かってきたように思います。

 旅と思索社は、今、ともに同じ時代を生きる「姿の見えない人びと」に寄り添い、本を記していきたいと思います。 

 これからも旅と思索社をどうぞよろしくお願い申し上げます。

  合同会社旅と思索社
  代表社員 廣岡一昭